小説家になりたいくらら

コラムやSS、短編を綴っているブログ。大学院生であり就活生。生きていくことに必死です。

SS(ショート・ショート)

『回生』

『回生』(SS) 飛び降りる夢を見た。見たことのない緑色の壁をしたビルの八階から、何度も何度も飛び降りる夢だ。落下速度は遅い。走馬灯が流れだす。しかしそこに楽しい思い出はひとつもなく、人生への後悔で埋め尽くされている。 長い間走馬灯を見せられ…

『いくつもの命を越えて』

『いくつもの命を越えて』 男は死ぬまで物語を描き続けた。いつの日にか、どこか遠い国の誰かの、生きていく慰めになるものを描くこと、それが男にとっての使命だった。男は、人生というものが一切の偶然で組みあがっていること、そして一切のものが人間によ…

『まだ成らない、桜の下で』

『まだ成らない、桜の下で』 「へっ・・・へっっくしょん!」 男は一定のリズムで、嚔(くしゃみ)をしていた。その後、一定のリズムで鼻を啜っている。 「雪彦って、花粉症だったっけ」 女がそう話すと、強く風が吹き、まだ未完成の桜の蕾が、ボツボツと落ちて…

『スーツの男』

『スーツの男』 ーーここではない。 僕はそう思った。四方が白く囲まれた真っ白い小さな部屋を飛び出した。僕は息が切れるまで走り回った。すると、同じところに迷い込む。目の前には道が続いていない。部屋に入るしかない。どん詰まりだった。この迷路を抜…

『泡のような人生に』

『泡のような人生に』 キッチンで食器を洗う音がする。男には付き合って二年目の彼女がいて、二ヶ月前に同棲を始めた。親切心からなのか分からないが、彼女はすすんで家事をする。男が仕事で疲れていることを理解しているようだった。 男の疲労はすでに限界…

『五分前』

『五分前』 「世界五分前仮説って知ってる?」 ユリカがそう聞いてくる。放課後、私たちは教室の片隅で不毛な議論をするのが日課だった。 「知ってるよ。あの、世界が五分前にできたかもしれないってやつ」 「そう。カオリは信じる?」 ユリカが食いついてくる…

『清算』

『清算』 真っ黒のスーツ姿。部屋の酸素は、その黒さによって吸収されていた。空気は冷たく、そして張り詰めていた。唾を飲みこむのも困難に思えるほど、一瞬の気の緩みも許されなかった。生きている人間たちが一人の死人を前にして、それぞれの思いの丈を何…

『物語の終わりには』

『物語の終わりには』 Ⅰ 「ねえ、マルバツゲームしようよ」 「うん」 「じゃあね、ライオンの雄は子供が生まれると群れから離れると思う?」 「マル、かな」 「それじゃあ、雌は雄を追いかけると思う?」 「えっと、そういう時もある、じゃだめかな」 「だめ…