小説家になりたいくらら

コラムやSS、短編を綴っているブログ。大学院生であり就活生。生きていくことに必死です。

『まだ成らない、桜の下で』

 

『まだ成らない、桜の下で』

 

    「へっ・・・へっっくしょん!」
    男は一定のリズムで、嚔(くしゃみ)をしていた。その後、一定のリズムで鼻を啜っている。
    「雪彦って、花粉症だったっけ」
    女がそう話すと、強く風が吹き、まだ未完成の桜の蕾が、ボツボツと落ちてきた。
    「いや、今年から・・・ズルズル・・・てか、頭に桜がついてるよ」
    女は、髪に付着したそれを器用に探っていた。しかし、それはなかなか見つからない。
    「もう俺が取ってやるよ・・・へっくしょん!!」
    盛大な嚔だった。男は手で抑えるが、手が汚れてしまった。女が、見ている。
    「いやいい、トイレで取ってくる」
    女は、立ち上がってお尻を払い、仮設トイレに向かった。仮設トイレに鏡はないんだけどな、男はそう思っていた。レジャーシートには、女のお尻の形が僅かに残っていた。男はそれを見て、レジャーシートを綺麗に伸ばした。
    女が、帰ってくるのが見える。少し怒っている様子だったから、男は右手に持っている缶ビールを口に運んだ。矛先が自分に向かないように、男は、何も知らない振りをしていた。
    「鏡無かったし、これ・・・取ってよ」
    女は定位置に座るが、まだ頬を膨らませている。男は、また嚔をした。

 

(580文字)